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杏林大学医学部 第三内科学教室 消化器内科
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教授挨拶

杏林消化器内科の矜持
~伝統の創造に向けて~

久松 理一

久松 理一

この4月から新年度を迎えます。まず、日頃よりご指導いただいているOB・OGの先生方に感謝申し上げます。また臨床、研究、教育に協力してくれている医局員の皆さんに感謝します。

2024年は杏林大学医学部付属病院そして消化器内科にとって大きな勝負の年となります。2024年4月1日から旧佼成病院が正式に杏林大学医学部付属杉並病院として生まれ変わります。ついに杏林の歴史上はじめて2つの医学部付属病院が稼働することになります。三鷹と杉並の2つの病院では使命や地域におけるニーズは異なると思います。しかし、根本的な医療や医学に対する考え方に何ら変わりはなく、消化器内科としても決して揺らぐものではありません。杉並病院消化器内科も"オリジナリティと質にこだわる"を意識してほしいと思います。杉並病院は大森鉄平 臨床教授と斎藤大祐 講師のリーダーシップのもと総勢7-8名の医局員で構成されます。新病院の中心的存在となって活躍してくれることを期待しています。三鷹と杉並との関係については、立体的で、常に交流している一つの医局として運営していきたいと考えています。将来的には互いが特徴を生かしてカバーしあうような関係を築くことが理想です。
また三鷹のスタッフも大きく変わります。松浦稔准教授が臨床教授、土岐真朗講師が准教授、三好潤講師が准教授、林田真理学内講師が講師、大野亜希子学内講師が講師に昇任します。若い講師、准教授も加わった新体制でさらなる進歩、発展を目指したいと思います。

さて、今年は杏林消化器内科の矜恃とは何かについて考えてみたいと思います。"矜恃"という言葉は英訳すると"pride"と訳されると思いますが、調べてみると微妙にニュアンスが異なるようです。たとえば「矜持が、経験や実績など自分自身が持っているものや培ってきたものを根拠としているのに対し、プライドは、他者との比較や人からの評価などを拠り所としている点に違いがあります」(畠山仁美氏解説より)という説明があります。私自身は"矜恃"の持つ自己への誇りや期待というニュアンスが日本人の美学にとてもあっていると思います。2022-2024年の目標を"オリジナリティと質にこだわる"としましたが、まさしく矜恃を持って仕事をしていくことがその根底に必要なのだと思います。大学病院の役割は高度先進医療を含めた質の高い医療の提供、研究、教育の三つの柱からなっています。各診療グループがそれぞれの専門性を高めていくことが重要ですが、単に知識や技術の向上だけにとどまらず、エビデンスの創出や新規技術開発を目指すことこそが専門家としての矜恃だと思います。そのためには、考察力、想像力、情報発信のプレゼンテーション能力などが必要となり、教育の役割はそこにあります。つまり、質の高い診療、研究、教育は相互に関係しており、どれか一つ欠けた時点で大学病院としての機能を失うと考えるべきです。

医師の働き方改革が話題となっています。旧態依然とした勤務時間や指導体制のあり方は改善されなければならないし、それが日本の医学の発展に不可欠であるとも思っています。しかし、昨今の医師働き方改革の議論は"労働者としての医師"についての議論に偏っており、研究者、教育者としての医師の役割に関する議論が置き去りにされているように思います。以前も述べましたが、医師=医学を学んだ人、であって医療を提供する労働者にとどまっていてはいけないと思います。勤務医に対する賃金は絶対に見直されるべきだし、そうでないと救急医療や高度先進医療を担う人材が枯渇する危険があると思います。しかし、いっぽうで医局員の皆さんには"プライスレス"というものも確かにあるのだとも伝えたいです。私は海外留学の経験がありますが、生涯収支でいえば間違いなくマイナスです。ただそれを補ってあまりある価値があったと実感しています。それは経験値、異文化の中での価値観の変革、挫折と自信、新しい友人との出会い、家族の絆、など様々です。自分への先行投資としての"挑戦"を避けてはいけない、そのチャンスは今しかない、と若い医局員の皆さんには伝えたいと思います。

消化器内科では医学部学生に内科学会ことはじめで発表してもらうことを数年間続けてきましました。表彰された学生、指導医も多数おり、作成されたスライドの質も年々向上しています。さらに杏林医学会雑誌の歴史上初となる学生での論文発表も生まれました。また、着任以降、博士号(甲)4名、(乙)6名が学位を取得しました。このように教育という点でも実績を挙げ、それが継承される素地ができてきていると思います。
研究面では消化器内科独自の基礎研究ラボが動き始め、それを起点とした他診療科や他施設と共同研究が進んでいます。大学院生が継続して入学してきていることも大きいと思います。

さて大変なのはここからです。この良い流れをいかに継続発展させ"伝統"へと昇華させるかはこれまで以上に難しい挑戦です。"伝統"というのはただ長い年月を経れば作られるというものではありません。修正を加えながらも根底にある目指すものに向かって挑戦し続けることを何世代にもわたって維持することで気づかぬうちに精神の奥底に根付くものです。10年かかるか100年かかるかわかりません。つまり現役はその達成を実感することはないかもしれないけれども、現役の頑張りがなければ杏林消化器内科の"伝統"は決して生まれることはないのです。

私自身は他大学の卒業生ですが、杏林消化器内科には強烈な自負があります。杏林消化器内科のメンバーを自慢に思っていますし、どこにも負けない、負けてはいけないと考えています。

私も杏林消化器内科教授としての矜恃を持ち続けますので、ぜひ医局員一人一人も杏林消化器内科の矜恃を持って日々精進して欲しいと思います。

【基本方針10か条】

  1. 「医は仁術」、これは不変である
  2. 考える医療をすること、医学はまた科学でもある
  3. 井の中の蛙になるな、世界は広い、外に出ること
  4. 挑戦すること、変わることを恐れない
  5. 限界を自分で決めない
  6. 仲間を大切にすること
  7. 最後までやり抜き、形に残すこと
  8. 異種格闘技はしない、勝負するなら同じ分野で!
  9. 一人で無理をするな、仲間に助けを求めなさい。
  10. 自信を持ちなさい、そして母校を愛しなさい

2024年4月1日
杏林大学医学部消化器内科学 教授
診療科長
内視鏡室室長

久松 理一(ひさまつ ただかず)


松浦 稔

松浦 稔

 本年4月から臨床教授を拝命いたしました。まずは本学に赴任する機会を与えていただき、日頃からご指導いただいております久松主任教授、また本学赴任に際して暖かく迎えていただき、いつも様々な面でサポートいただいている医局員ならびに医局関係者の皆様に感謝申し上げます。

 さて、私はこれまで特に下部消化管内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡を中心とした内視鏡診療と、自身のサブスペシャリティである炎症性腸疾患を専門とした臨床ならびに基礎研究に取り組んで参りました。そこで、まず私が杏林で何を出来るか、何が杏林消化器内科のためになるのか考えて最初に取り組んだのが小腸内視鏡検査の普及と後進の育成でした。この5年間で当院でのダブルバルーン小腸内視鏡検査の件数は大幅に増加し、近隣の医療機関からも多くの紹介をいただくようになりました。またダブルバルーン小腸内視鏡検査を安心して任せられる先生も順調に増え、当初はどこか不安気だった若い先生達が今は自信を持って小腸内視鏡検査に臨んでいるのを見ると大変頼もしく思います。
 杏林では2019年10月に炎症性腸疾患包括医療センターが設立され、小腸検査や治療の需要が大幅に増加しましたが、それにも対応可能な状況になってきました。しかし、ここがゴールではありません。杏林は西東京地区のみならず、今では全国的にも有数の炎症性腸疾患のハイボリュームセンターとして認知されるようになりました。高度で専門性の高い医療を提供し、それを継続できるように次世代の人材を育成するという点では大学病院としての役割を果たしているのかもしれません。しかし、大学病院に求められる役割はそれだけではありません。例えば、小腸検査に関して言えば、杏林ではダブルバルーン小腸内視鏡以外にもカプセル内視鏡、小腸透視が可能であり、さらには腸管エコー検査に至っては国内の医療機関の中でも先導的な役割を担っています。このような小腸の検査モダリティが高いレベルで揃っている施設は全国的にも限られており、杏林の大きな強みだと思います。また杏林では早期癌に対する内視鏡治療(ESD)や胆膵疾患に対する内視鏡的治療も精力的に行っており、今や西東京地区の中核施設の一つになっています。消化器内科の医局員が多忙な業務の中でも患者さんに真摯に向き合い、大学病院に相応しい高い水準の医療を実践していることは本当に誇りに思います。ですが、この先、杏林が次のステップへと発展していくためには、杏林の特性を活かしたオリジナリティのあるものを追求する、そして発信していく姿勢が必要だと考えています。次は、内視鏡検査の件数や治療実績の数字に拘るのではなく、その内容や質、そして杏林の特性を活かした魅力あるプロジェクトを開拓し、内視鏡関連の分野においても杏林ならではのオリジナリティのあるものを確立していきたいと思います。また、このようなチャレンジには若い先生達の自由な発想やアイデア、情熱、パワーが必要です。そして何より自由に意見を交わし、お互いが切磋琢磨する雰囲気が大切です。ぜひ、皆さんの力を結集させて、次のステップに進んでいきたいと思います。

 次に、私がもう1つ、自身の経験を活かして取り組んできたのが専攻医への内視鏡教育です。私は杏林赴任後に勤務する傍ら、当院は大学病院でありながら、一方で多摩地区の医療を支える地域の基幹病院としての役割も期待されていると感じました。実際、杏林の医局員の中には将来、自身のキャリアプランとして開業医(家業を継承する場合も含めて)を志す先生が多数いるのも事実です。また、専攻医が消化器内科医として充実した研修を積むことが出来るように、久松主任教授が都内あるいは近郊の中核となる医療機関との連携にご尽力されている姿も見てきました。しかし、内視鏡検査が現在の消化器診療において重要なツールであるにも関わらず、私が杏林に赴任した当初、専攻医に対する内視鏡教は出向先の先生方にご指導いただいて成り立っている部分が大きい印象を持ちました。そのため、大学病院として高度で専門的な内視鏡診療を行っていくために必要な専門家の育成に加え、それと同時に、これらの基盤となる若手医師に対する内視鏡教育と杏林大学消化器内科の基本的な内視鏡診療レベルの底上げが必要と感じ、その体制整備を始めました。本年4月には本学に新たな付属病院が開設され、関連病院との連携推進、消化器内科医としての地域医療への貢献、とますます多くの人材の育成と供給が必要です。ですが、当科の長期的な発展という視点でみると、このような内視鏡教育が一時的なものに終わってしまってはいけません。自身が受けた教育を次の世代に引き継ぐ、杏林の外に勇気を持って飛び出しトップレベルの内視鏡を貪欲に学ぶ、そして学んだものをまた持ち帰って融合し発展させる、思考錯誤しながらもこのような試みを継続することが大切です。ぜひ、医局員の皆さんとこのような長期的なビジョンを共有しながら杏林の内視鏡診療を大きく発展させ、杏林で育った内視鏡医が大学病院、地域の中核病院、実地医家に至るまで様々な場面で活躍し輝くことを目指していきたいと思います。

 さて、最後にもう1つ、医局員の皆様、特に若い先生方に伝えたいことがあります。それは一緒に「研究」という領域に一歩踏み出してみましょうということです。「研究」という言葉を聞くと何か難しい、何をしたらいいか分からない、臨床医だから研究は必要ない、などの言葉を若い先生達からよく聞きます。ですが、基礎研究であっても臨床研究であっても医師が研究を行う最大の意義は、研究経験を通して磨かれる観察力と科学的な考察力であり、このことが医師としての力を大きく伸ばすことに繋がると私は考えています。だからこそ、臨床医であっても自身の臨床能力を伸ばすために研究に取り組む必要があります。実際、私自身も大学院や海外留学で基礎研究に取り組みましたが、これらの基礎研究の経験を通して鍛えられた観察力と科学的思考が、臨床現場での疑問の発見、データの捉え方、それらに基づく理論的な考察や病態把握、治療方針の選択、患者への説明など、日常診療のさまざまな場面で大きく役立っていることを改めて実感し、自身の臨床医としての能力向上につながったと確信しています。臨床研究や基礎研究のいずれであっても研究活動によって得られた新たな知見が医学の発展に寄与することはもちろんのことですが、それ以上に、このような研究経験で得られる観察力や科学的な考察力こそが何事にも代えがたい皆さんの財産になり、臨床医としての活動を充実させ、より楽しいものにしてくれると思います。これからの杏林消化器内科の未来を担う若い先生達には、ぜひ一緒に研究に取り組んでいただきたいと思いますし、私も精一杯サポートしていきたいと思います。

2024年4月1日
杏林大学医学部消化器内科学 臨床教授

松浦 稔(まつうら みのる)


2024年4月から杏林大学医学部消化器内科学講座に臨床教授として赴任してまいりました、大森鉄平と申します。皆様と共に歩めることを嬉しく感じております。着任にあたり、現在の抱負を述べさせていただきたいと思います。私の専門は炎症性腸疾患と小腸疾患になります。まず私が診療医として最も大切にしてきたことは疾患を診るだけでなく、社会背景を含めた患者全体を診ることです。医学が進歩し専門性が高まるほど、医療従事者と患者さんおよびそのご家族とのギャップは広がる傾向にあります。私が専門とする炎症性腸疾患は慢性進行性の難治性疾患ですので、患者さんや患者さんのご家族との良好な関係構築は治療成績すなわち患者さんの予後に直結します。近年、慢性疾患や悪性疾患では患者さん自身が治療に参加するShared decision making (SDM) の重要性が提唱されています。私はその実践のために、motivational interviewing (動機づけ面接法)などのコミュニケーションスキルを取り入れ診療を行ってきました。
前任地では主に臨床研究を中心に活動してきました。私が研究において常に心がけていることは日常診療における疑問をClinical Questionとして昇華し、臨床研究とすることです。そしてその成果を実際に臨床の現場で患者に還元することを最終ゴールにおいています。大学人として、研究を行うことは使命であると同時に権利でもあります。さらに臨床医である我々にとって重要なのは、研究の成果が患者の利益として還元され、教科書を書き換えるほどのイノベーションを起こすことです。そのためには現状に満足せず、広い視野を持たなければなりません。大きな仕事を成し遂げるには仲間が必要で、1人あるいは単施設では難しいと思います。そのためには自ら共同研究を立案する、あるいは他の共同研究に参加することが必要です。
臨床と研究の両輪を動かすことは、多くの労力を必要とします。しかし研究成果が患者の喜びに直結する臨床研究に携わることは臨床医として大変幸せなことだと私自身が感じていますし、その喜びを若い医局員にも体験してもらいたいと思います。そのためにも日常診療において、Clinical Questionを常に意識することをスタッフ全体で共有していきたいと考えます。そして自らの経験を将来へ残していく大切さも実感してほしいと思います。従来医学とは先人の経験や知識を論文として残すことで発展してきたものであり、論文を書くことは医師(特にアカデミアに所属する者)の責務でもあります。論文の著者となり情報を発信する経験を積むことでその人の能力は飛躍的に伸びると思います。自らの体験からは、まずは症例報告の発表、論文化から始めるのがいいと考えています。症例報告の経験を積んだのちは、実臨床の中で解決されていない課題、さらに改善するべき課題を抽出しClinical Questionとして考え臨床研究として昇華させるよう「気づき」となるきっかけを提供できるようにしたいと考えています。
また私に課せられた使命の一つに、付属病院として新たに開設された杏林大学医学部付属杉並病院の消化器内科の立ち上げがあります。
新病院においても他科との連携はもちろん、三鷹本院との連携を強化しエビデンスに基づいた質の高い治療を提供していきたいと考えます。また杉並区及びその周辺に大学病院はなく、高度な医療や質の高い医療に対するアンメットニーズが潜在していると考えられます。つまり、新病院は特に患者数の多い消化器疾患の受け皿を担わなければなりません。これを達成するためには、地域の診療所やクリニックとの密な連携が重要であります。従来のような単純な病診連携ではなく、大学病院として専門性に特化しつつも相談しやすい、顔の見える連携が求められます。この連携を重視することで根付き、杉並三鷹医療圏のみならずその周辺地域まで包括的医療圏の核になることが目下の目標となります。
すぐに全ての目標が達成できることはありませんが、皆さんと共に一歩を踏み出していきますので、諸先輩方、OBの先生方からのご指導ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

2024年4月1日
杏林大学医学部消化器内科学 臨床教授

大森 鉄平(おおもり てっぺい)